1986年制作の香港映画『阿羅漢』は、原題を南北少林とするカンフーアクション作品です。清王朝時代を舞台に、北少林と南少林の拳士たちが力を合わせて暴虐な権力者に立ち向かう姿を描きます。リー・リンチェイ(ジェット・リー)をはじめとする本物の中国武術家たちが総出演し、迫力ある武術シーンが満載の少林寺シリーズ最終作。
カンフーの種類や特徴
本作では中国武術の伝統的な区分である北拳と南拳が中心。北少林と南少林の対比が物語の核をなしており、それぞれの特徴がアクションを通じて鮮やかに描かれます。
北拳は主に嵩山少林寺を中心に発展した北方の武術です。広い平原での戦いを想定し、動作が大きく伸びやかで、脚技を重視する点が特徴です。高い蹴りや跳躍、回転を交えたアクロバティックな技が多く、長距離からの攻撃を得意とします。姿勢は比較的高く機動性に優れ、手は門のように防御を担い、脚で相手を打ち破るという考え方に基づいています。勢いよく広がる大きな動きと、力強い剛の技が目立ちます。
一方、南拳は福建の莆田少林寺などを中心に発展した南方の武術です。山がちで狭い場所や船上での戦いを想定し、低い姿勢を基本とします。下盤をしっかり固め、短く爆発的な拳技や前腕を使った橋手を多用します。近距離での攻防を得意とし、手法が密で剛猛な打ち込みが特徴です。脚技は控えめで安定した馬歩を基盤に、一気に相手を崩す短勁を活かします。北の「長」に対して南の「短」を活かした実践的なスタイルです。
本作ではこれらの違いを活かし、北の広がりある技と南の密着した剛拳が融合する様子が thrills に満ちた戦いとして表現されています。監督自身が洪家拳の使い手であることもあり、本物の武術の質感が強く感じられます。
あらすじ
時は清王朝の時代です。中国武術の総本山である少林寺は、その力を恐れた王朝の影の実力者・赫索の武道弾圧政策によって、北少林寺と南少林寺に引き裂かれていました。
北少林寺で修行を積む智北は、師匠から赫索を倒すために南少林と手を組む使命を受け、南へと旅立ちます。一方、南少林寺からも北との連絡を取るため、最強の拳士・智南と、赫索に両親を殺され復讐に燃える司馬燕が送り出されます。
三人は合流して北京に潜入し、紫禁城で催される赫索の誕生祝いの宴会に忍び込み暗殺を謀ります。しかし巧妙な防御に阻まれ失敗し、追われる身となります。逃亡の中で三人の間に友情と恋が芽生えますが、司馬燕が捕らえられてしまいます。
智北と智南は司馬燕を救うため赫索の大軍に立ち向かい、次第に追い詰められていきます。そこへ南北双方の少林寺の拳士たちが駆け付け、一体となった彼らの激しい戦いの末、ついに赫索を倒すのです。
解説
『阿羅漢』は『少林寺』『少林寺2』に続く三部作の最終作として位置づけられます。前二作が中国本土主導だったのに対し、今作は香港の武術映画の巨匠ラウ・カーリョンが監督を務め、より本格的なカンフーアクションに仕上がっています。中国全土でのロケーション撮影を敢行し、広大な風景の中で繰り広げられる武術シーンが壮大なスケール感を生み出しています。
物語の軸は南北少林の分裂と再統合です。権力による分断を乗り越え、共通の敵に立ち向かうことで真の力を発揮するというテーマは、単なるアクションを超えた人間ドラマとしても機能しています。智北の冷静さと技の切れ味、智南の豪快さ、司馬燕の強い意志が絡み合い、友情と恋と復讐の感情が自然に描かれます。
アクション指導は監督のチームが担当し、ワイヤーを極力抑え、実際の武術家によるリアルな攻防が際立ちます。北の脚技と南の拳技がぶつかる場面では、様式美と実戦性が両立した見応えのある戦いが続きます。特に終盤の集団戦は、個々の技が絡み合う迫力満点の仕上がりです。
阿羅漢というタイトルは、最強絶対の拳技を極めた者を指す言葉として用いられています。単なる武闘ではなく、修行を通じて精神的にも成長する姿を暗示しており、作品全体に深い余韻を残します。1980年代のカンフー映画ブームを象徴する一作として、今なお多くのファンに愛されています。
キャスト
- 智北役:リー・リンチェイ(ジェット・リー)
- 智南役:フー・チェン・チァン
- 司馬燕役:ファン・チュウ・イェン
- 赫索役:ユエ・チェン・ウェイ
- 釋忍役:ユエ・ハイ
- 無漏大師役:イェン・ディ・ホア
- 清の提督役:ソン・チャンカイ
- 将軍役:チー・チュアンホワ
- 少林寺管長役:チャン・ジェンウェン
主演のリー・リンチェイは当時すでに武術大会で輝かしい実績を持ち、本物の動きで観客を魅了します。共演者たちも中国武術の達人が揃い、アクションの説得力を高めています。
スタッフ
- 監督:ラウ・カーリョン
- 脚本:シ・ヤン・ピン
- 製作:リュー・イェット・ユエン、アン・チ・カイ
- 製作総指揮:フー・チー
- 音楽:ジェームズ・ウォン
- 撮影:チャオ・アンサン
- 編集:チー・イン・ター
- アクション指導:ラウ・チーム
- 製作会社:珠江影業有限公司
- 配給:東宝東和
監督のラウ・カーリョンは自身も優れた武術家であり、『少林寺三十六房』などで知られるアクション映画の第一人者です。彼の手腕により、物語と武術がバランスよく融合した作品となりました。上映時間は約98分で、1986年に日本でも公開され大きな反響を呼びました。

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